内臓の機能面について
私が好きな写真家で藤原新也さんというかたがおられます。この方はこのコロナ禍の状況を「非接触時代」という言葉を使って表現されています。「非接触」のコロナ禍では接触で腸内細菌を人と人の間での交換することや、消毒で生活環境での腸内細菌の摂取の機会が非常に減り人類のフィジカル面での弱体化が起こる可能性がある、と警鐘を発しています。
私もこの話を聞いてはっとしました。今回は藤原さんの「非接触時代」という言葉をヒントに、理学療法とは一般的には少し離れた内臓や食べ物の話になりますが、「フィジカル」という意味ではとても重要な内臓の機能面について書かせていただきます。
土の中の菌(土壌菌)
〈無菌状態〉
無菌状態や、抗生物質を投与して腸内細菌叢を除去したマウスでは、免疫異常が発生したと報告されており、これは人間に置き換えてもこういったことが起こる可能性が示唆されます。いかにして腸内細菌叢の環境を整えるかは、コロナ禍で感染を予防するために、また免疫を含む体調の維持に大切ではないかと考えます。
長谷耕二 「腸内細菌による免疫制御」
〈腸の調子を整える〉
免疫機能には自然免疫と獲得免疫があると言われています。コロナウィルスは、抗体による獲得免疫ではなくても、自然免疫で抵抗できうる要素もあると言われています。腸管には体内の免疫細胞の60%が存在すると言われており、腸内環境を整えることが免疫細胞の活性化につながると考えます。
〈日本人の腸管の特徴〉
2016年に服部らが日本人を含む12か国のヒト腸内細菌叢データの比較を行っています。その中で「日本人の腸内細菌叢の特徴として,炭水化物の代謝能が高い,鞭毛を持つ菌が少ない,修復関連の遺伝子が少ない,などが挙げられます.炭水化物が代謝されると,短鎖脂肪酸,二酸化炭素,水素が生成され、このうち短鎖脂肪酸はヒトの栄養素となり,水素は 抗酸化作用を発揮します.ヒトは細菌の鞭毛抗原に対して免疫反応を起こすことから,鞭毛を有する菌が少ない と,免疫による炎症反応が起こりにくくなります.修復関連の遺伝子が少ないことは,DNA損傷が少ないことを意味していると思われます.つまり,日本人の腸内細菌叢 の機能的特徴として挙げられた点はいずれもヒトの生理状態に有利に働くもので,こうした特徴が日本人はBMI が低く,また長寿であることと関係しているのかもしれません.」としています。更に、炭水化物代謝で生成される水素を酢酸の生成に使う率が他の国の例と比べ高く、細胞の栄養となる酢酸が腸内環境の健全化に寄与しているとしています。さらにポルフィラーゼという酵素遺伝子(海藻類を分解する酵素)は90%の日本人に存在しているが、他の11か国では15%未満である、と報告しています。
〈米食と免疫〉
また渡邊らは、米が主食の国では、小麦が主食の国よりCOVID-19の感染率が低いと報告しています。
渡邊ら「Low COVID-19Infection and Mortality in Rice Eating Countries」原文
https://lupinepublishers.com/food-and-nutri-journal/pdf/SJFN.MS.ID.000158.pdf
食品産業新聞記事(8月17日)
https://www.ssnp.co.jp/news/rice/2020/08/2020-0817-1601-14.html
土の中の菌(土壌菌)
更に調査が必要ですが、清潔である、まじめであるといったファクターはもちろんですが、米食(発酵食品を含む)、海藻類の摂取という古くから日本人が親しんできた食生活で育まれた、ほかの国の人のそれとは違う腸内細菌叢が日本人の感染率の低さの一助となっていると考えるのは乱暴だとは決して思えない、という印象があります。
「接触」により腸内環境を鍛えることが制限される今、意識的に腸内細菌叢を育てる必要があると思います。私は米や米を使った発酵食品(甘酒、どぶろく、ぬか漬け等)、海藻など、実はすごく身近で慣れ親しんできた食べ物をとることが、コロナ禍で我々の腸管免疫力を発揮するのに大切なのではないかと思っています。
〈土との接触〉
土の中の菌(土壌菌)
非常に興味深い報告です。
保育園の園庭に、芝を張りプランターを設置すると、園児の免疫系が改善した | ワールド | for WOMAN | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
フィンランドで行われた研究で、「保育園の園庭に、小さな森をつくり、芝を張り、プランターを設置したところ、園児の腸内細菌叢がより多様になったことがわかった。」という内容です。
健全であることは腸内の菌が少なく、衛生的であることではなく、腸内細菌の多様性があるということが言えるような気がします。
堆肥づくりをするなかで、先輩の農家の方々は様々な工夫をされていることを知りました。例えば、植物にはセルロースという強力な食物繊維が含まれておりこれは最後まで分解されません。そこで笹が群生しているところに米糠の団子を置いて土壌菌を「採取」するのです。それを堆肥に混ぜると、食物繊維の強い茎などの分解が進みます。こういった様々な土壌菌の特性を生かして、最近では土壌菌のサプリメントもあるようです。
「知識」ではなく「知恵」つまり日々の工夫の中で自然と生まれる地に足のついた「知恵」という「実践科学」に心が揺さぶられるとともに、実践の中にこそ実は包括的かつ本質的な物事の解決策があるのではないかと思いながら、微生物の働きで堆肥から発せられる熱に思いを馳せる次第です。
小川岳史
大変興味深く拝読させて戴きました。とても面白い!妻の実家は畜産業を営んでいますが、住宅街育ちの私と違ってアレルギーもなく風邪は滅多に引きません。便秘がちな娘の便の匂いと、排水溝の匂いは同じ匂いがします。
土を触っていると様々な事に気付かされます。
理学療法を筋骨格のみでなく、身体内部(実は外部)で捉えると面白いですよね。全く新たな視点を模索中です。