コロナ禍における日常の過ごし方(1)

コロナ禍における日常の過ごし方。

 

私は理学療法士として人々の治療を行っていますが、出口のみえない日常の中で人々の「身体の脆弱化」を感じます。ひと頃のみんなテレビに釘付けでワイドショーを見て憂鬱な気分になり一日外に出ない、というような状況からの改善は見られますが、まだそういう生活をしている人は沢山おられる印象です。

「感染しない、感染させない」 という過ごし方に加え、「身体の脆弱化」の危機を認識し、「どう意識的にフィジカル機能の低下を避けるか」が長期化するコロナ禍を生き抜くために重要になると思います。

今回「身体機能の脆弱化」を筋骨格という側面と内臓という体内環境のふたつの側面で考えてみたいと思います。そしてその解決の糸口の一つとしての「自然との接触」について、自分の生活から感じる事を述べさせていただきたいと思います。単に「触れることで菌を得る」というところから更に踏み込んだ「むき出しの自然に接することで脳を鍛える」という視点からも考えてみたいと思います。

1筋骨格面から

〈長時間の不動を避ける〉

自粛要請は出ていないものの(でそうな雰囲気ですが)、世の中には自粛の「雰囲気」が続いている感じがします。もちろん、人込みを避ける、いわゆる「3密」にならないといった注意は必要だと思います。ただし、自粛が過剰になりすぎていないか、今一度行動を顧みる必要があると思います。例えば、散歩に出かける、人がいない公園に出かける等、自宅の近所でも体を動かす場所は十分あると思います。

具体的には「1時間座り続けたら10分立つ、あるいは2分歩く」とよいと思います。

 

〈長時間の座位や臥位で背中が弱る〉

長時間の座位や臥位は人体に筋力低下をもたらします。その中でも私は背筋、特にみぞおちの後ろ当たりの背筋の筋力低下を危惧しています。そして実際はそのような人々を散見します。この筋は背骨の横のいわゆる脊柱起立筋と言われている筋(図1)です。人体の脊柱(背骨)は頸椎、胸椎、腰椎で構成され、それぞれ7、12、5個の骨から形成され、互いが関節しながら可動性を持ち、起立位になったときには各骨が直立するのではなく、頸椎は軽度の前彎、胸椎は軽度の後弯、腰椎は軽度の前彎となり、体の重さをうまく分散して骨と骨の間の椎間板圧を逃がすという戦略をとっています。

みぞおちの後ろ当たりはちょうど胸椎の12番あたりです。この骨は上下の背骨との関節の仕方が特徴的で水平方向の回旋をつかさどっています。体をひねるという動きで一番動くのは本来この骨です。脊柱の関節の特徴として伸展位、つまりより垂直に近い状態にあるときが一番回旋の動きがでやすいというものがあります。

 

歩く、走る、物を投げる、強くたたくなどの動作をするときに、この体をひねるという動作が非常に重要です。体を起こして上半身を回してうまく対象に力を加えるという動きは、摩擦と重力という地球で万人に共通の力をうまく使って仕事をなす際に非常に大切な動作です。テクノロジーの発達で、歩行距離が短縮し、また身体を使って強い力を発揮する必要が少なくなり、またデスクワークなどで不良姿勢(図2)での長時間の座位を余儀なくされる今日では、このみぞおちの後ろ当たりの動きと筋力が低下している印象があります。

生き物としてこの部分の働きを失わないことは、直立二足歩行に進化した人間にとって非常に大切なのではないかと思っています。

「進化とは調和のとれた発達である」。これはある治療家の言葉ですが、この調和とは、自分以外の環境、身体と精神などすべてに当てはまるのではないかと思います。非接触の他者との関係、座位ばかりで背筋が弱ってしまっている状態は、「調和がとれた状態」とは

言えない、つまり進化している状態とは言い難いと思います。人間が人間の都合だけで「進化」と定義すると、例えば便利になる、富を得ると考えるのではないかと思います。ただ、それは人間の、さらには一個人の論理であり、他者や人間以外の生物との調和という視点を欠いてしまう危険性があると思います。混迷する世の中で、せめて個人として「調和」を保つこと、身体を動かし、自然との「接触」を持ち、関係の中で生きていることを認識することは、大事な気がしています。

〈何をするか〉

  • 座り方を工夫する。椅子座位の場合は深く座って体を起こすとよいと思います。また、椅子の上で「胡坐」になるのもよいと思います。その時にちょうどお尻のしたに10㎝くらい高くなるように枕やクッションなどを置くと(図3)骨盤を起こすことができ、背骨が立っているときと同じようなカーブになるのでよいと思います。椅子ではなく座卓を使われている方も同様です。

  • コブラのポーズ ヨガのポーズの一つですが、うつ伏せで床に手をついて体を起こします。その時に肩甲骨を寄せること、肋骨を前に出すことを意識し、みぞおちの後ろ当たりから体をそるようなイメージで動かします。みぞおちから骨盤までの背骨には、内臓を腹筋で押し込むようなイメージで、背骨を固定します。普段は前に曲がってしまっている背骨を起こすようなイメージです。息を吸って体を起こし、吐いて体を戻す 座りっぱなしのひとは2時間毎に10回くらい

  • 股割

立った姿勢から足を開いて体を起こしたまま骨盤を落とします。自分で下せる限界の位置で骨盤を上下に動かします。背筋群を活性化する動きです。座りっぱなしの人は2時間毎に20回くらい

  • 胸を起こして歩く  歩く前に両手を思いきり上に伸ばします。そうすると背骨が伸びて、お腹の筋が引き延ばされるのを感じると思います。このお腹の感じ(引き延ばされて力が少し入っている状態)をキープしたまま手を下ろし、肩の力は抜いて、歩きます。30分程度歩くとよいと思います。

この体の動き(姿勢)は我々が、狩猟、農耕をしていた時代に使っていたときに必要だった体の動きです。もちろん実際にこれら(狩猟、農耕)を行うことは、そのような環境がない限り難しいですが、毎日少しでもこういった動きを体に「忘れさせない」ことは、身体機能の維持に重要だと思っています。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。