これまで肉離れの発生メカニズム、実際の治癒過程などのお話をさせていただきました。
今回は「はたしてどのくらいで治るのか」についてお話させていただきたいと思います。
どのくらいで治るのかは一番難しい問題であり、損傷分類、更に重症度を分類して予後を立てるという試みが世界中でなされています。特にプロスポーツという一日、一試合で大きく運命が変わってしまうような環境では、この予後予測が非常に重要であり、私はここで多くの経験を積ませていただきました。
もちろん一般のスポーツ愛好家の方、学生の方でも一日でも安全に復帰したいというのは変わらないと思いますし、治療方針を立てる上でこの予後予測は非常に大切です。
前回お話させていただいたように、肉離れは、その傷を負った場所で分類し、さらにその損傷度合いで評価するのが有効であると考えます。なぜなら、損傷した場所で治癒に至る日数は全く変わってしまうし、その程度を合わせて考えないと判別がつかないからです。損傷部位と損傷度合いこの2つの評価が必要だと考えます。
上図は2009年に発表された「奥脇分類」です。この分類では肉離れをタイプⅠ(筋肉そのものの損傷)
、Ⅱ(腱膜、もしくは筋腱移行部損傷)、Ⅲ(腱の付着部損傷)で分け、それまでひとくくりで実体がつかめていなかった肉離れを分類したものです。これによりタイプⅠ(1.5W)、タイプⅡ(6W)タイプⅢ(20W )というすべての筋に関するおおよその予後の数字が出されました。
これを上の写真に当てはめると、①、②がおおよそ1.5W,③が6W、④が20W となります。
更には2019年にJISS分類としてハムストリングスの大腿二頭筋のみに着目した重症度分類を発表しました(上表)。これはタイプ分類をさらに重症度で細かく分類したものです。これにより「『二度』、もしくは『タイプⅡ』なので6~8週ですね」という曖昧さが無くなりました。
ただしこれはあくまで大腿二頭筋に限ったものなので、他の筋についての細かい分類はさらなる研究が必要で、今その他の筋の損傷についての詳細も少しづつ発表がなされています。
また昔の傷が治らない、といったような慢性的な症状の訴えをされる方もおり、まだまだ実態は知られていないという印象です。
ですが、できるだけその実態に迫っていきたいと考えています。